歴史討論室

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B型肝炎ウィルス - 橘

2023/11/19 (Sun) 17:03:50

B型肝炎ウイルスの亜種分布
帇木氏は1947年福岡に生まれて、東京大学仏文科を卒業後TBSに勤務。2年後九州大学医学部に学んだ。今は現役の精神科医であり、いくつもの賞を受賞した日本の医学サスペンスの第一人者である。その彼のデビュー作がこの『白い夏の墓標』であった。
 圧巻だったのが小説の冒頭で紹介される「B型肝炎ウィルス」についてであった。
B型肝炎ウイルスは血と血がまじりあう親密な関係を経て感染するユニークなウィルスだ。人と人が交わって伝播する文化は地域的特徴をもつ。それならB型肝炎の多くの亜種にも地域的特徴があるのではないか。この仮説に基づいて主人公医学チームは日本及び日本周辺のB型肝炎ウィルス亜種「r型」と「w型」の分布の解明に取り組む。
 その結果、ウィルス亜種によって歴然と地域差がでた。r型は九州に多く、北上するに従いw型が増加していく。r型の占める比率で示すと、福岡92%、広島89%、岡山85%、神奈川77%、東京68%、栃木61%、秋田46%と見事な勾配を示していた。
数字の勾配からいけば北海道は30%台になるが、実際は東京と同じ68%であり、逆に距離的には近く90%でよいはずの沖縄は14%であった。
 これだけではない、日本周辺各国の亜種の分布が衝撃的であった。中国、韓国ではr型が100%で、w型が0%であった。さらに驚くことに、台湾、フィリピン、インドネシアでは逆にr型が0%でw型が100%であったのだ。
 ここまで明らかになれば次の推論は十分説得性を持ってくる。すなわち、「原初の日本民族はB型肝炎ウィルスw型に感染していた南方系であった。そこへ中国大陸からr型に感染していた人々が九州ないし本州西端に上陸し、ゆっくり北上しついには本州北端まで到達した。しかし、明治になって全国各地の人々が北海道へ移住したので北海道は平均化され東京と同じ値になった。他方、r型の人々は南下しなかったので沖縄はw型の原型を保ち続けた」
 B型肝炎ウィルスの亜種分布が数万年にわたる日本列島での民族の交流を教えてくれているのだ。
 なんとワクワクする仮説だろう。肝炎ウィルスが日本人のルーツを指し示しているのだ。
 私はこの部分を読み終わり文庫本を伏せた時、「あっ、もしかすると!」とあわてて書類棚に向かった。書類棚のデータ集ファイルを綴って取り出したのが、日本列島へ漂着したゴミ分布図であった。
本より

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